一瞬の輝き〜まぼろしの薩摩切子2009年05月12日 19:00

まぼろしの薩摩切子
いやあ、もう大満足です。薩摩切子の名品がこんなにたくさん見られるなんて! まさに至福のひとときでございました。

3月から六本木のサントリー美術館で始まっていた「まぼろしの薩摩切子」展にようやく行けました。昔からガラスを見るのが好きで、吹きガラスも、カットグラスも、レトロ系の食器etc.も、みんな好きなのですが、和物ではやっぱり薩摩切子だなあと思います(ちなみに西洋物ではルネ・ラリックがお気に入り☆)。

サントリーのコレクションは、美術館が赤坂にあった頃からちょこちょこ見ていたのですが、薩摩切子だけをこれだけ系統立てて見たのは初めてだと思います。質も量も構成も、とても充実していました。

なかでも、徳川美術館から出品されていた、篤姫お輿入れの際のお道具は見事なもので、全部切子で揃えた雛道具(しかもミニチュアサイズ)を見た時は倒れそうになりました。立派な一対のデキャンタ(こちらは通常サイズ)は白酒を入れて使われたそうで・・・うーん、なるほど!

☆ブルータス副編集長のブログ(雛道具のPHがUPされています)
http://fukuhen.lammfromm.jp/2009/03/post_581.html

しかし、島津斉彬が藩主だった時の7年余り、先代からの時期を含めても10数年というごく短期間につくられたものなのに、こんなに美しく、完成度の高い製品が生み出せたなんて奇跡のようです。江戸切子もステキですが、こちらはシンプルであっさりめの製品が多い。

独特のカットは最初、イギリスやアイルランドのものがお手本だったようですが、結局、霰(あられ)、菊、麻の葉、籠目、亀甲、魚子(ななこ)など、日本の伝統紋様をモチーフにして練り上げられ、西洋のギヤマンが和の工芸へ昇華しているところがスゴイなあと思います。しかも成形の難しいガラスという素材で、蓋物やお重など、キッチリ寸法があわないと成立しないものを制作していたり。

☆モダンリビング編集部員のブログ(こちらのPHも美しい・・・)
http://mdnlvng.exblog.jp/11196463/

西洋の工芸品は、細部まで見ていくとアバウトな部分があり、そこにまた味わいもあるのですが、漆器や蒔絵、染物、指物などの工芸品は、人の手によるものとは思えないほどの神業的な完成度があります。黄金比率といっていいのか、破綻やゆがみのようなものがほとんどない。しかも「作家物」ではない市井の職人の作でもそうなのですから、日本人の美意識自体にバーフェクト感を求める傾向があるのでしょうね。

しかし、なんといっても薩摩切子のすごさは、透明なガラスに色ガラスを被せて、それを進化させたことでしょう。今回はこれまであまり紹介されてこなかった、透明な薩摩切子にもスポットがあてられていて、それも大変美しいのですが、ボヘミアンガラスのような透明なカットグラスにせず、単なる色ガラスにもせず、色被せガラスに大胆なカットを施すという発想が素晴らしい。

色彩が加わることで、光の屈折や表現にバリエーションが増え、ガラス特有の透明感や質感がさらに際立つ。そこに着眼した斉彬という人は(最初から色ガラスの製造を命じていたようです)、藩主というだけでなく、プロデューサーとしても優れていたんだなと思います。

斉彬の急死と幕末の動乱で、薩摩切子の製造は終焉を迎えました。彼が生きていれば、切子の伝統はもっと続いていたのでしょうか。こわれやすいガラスという素材のはかなさともあいまって、「一瞬」だったからこそ、限られた作品が美しい輝きを放っているような気がします。

☆「一瞬のきらめき〜まぼろしの薩摩切子」展
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/09vol02/index.html
5月17日(日)まで、六本木のサントリー美術館で開催中
6月13日〜8月30日、神戸市立博物館へ巡回