川上澄生 木版画の世界2010年04月13日 22:37

川上澄生:木版画の世界
先日、友人にすすめられた「川上澄生展」を見に世田谷美術館へ。お天気のいい日だったので用賀駅から歩き、砧公園で名残の桜を眺めながらお弁当。これからの季節にはいいお散歩コースですね。

川上澄生は1895年生まれの版画家。英語教師のかたわら、市井の中にあって郷愁に満ちた独特の世界を紡ぎ出し、マイペースで作品をつくり続けた人でした。銅版画やリトグラフetc.版画というものになぜか惹かれます。絵画とはまた違い、肉筆と印刷の中間にある暖かさに味わいがあるからでしょうか。

蔵書票以外の作品を体系的に見たのは初めてで、多彩な作品群が新鮮でした。イソップ物語や聖書、日本のおとぎばなしをモチーフにしたもの、文明開化の時代を彷彿とさせる和洋折衷のハイカラ趣味を象徴する懐中時計やランプetc.。素朴なタッチの作品にはユーモアが漂い、懐かしく、ホッとするやすらぎに満ちています。

紙芝居のように映し出される物語本のスライド(ゑげれすいろは、あだんとえわ、瓜姫)もいい感じで、作品自体は小さいのに、思わず見入ってしまいました。

特に好きだったのは「初夏の風」という初恋の女性の面影を投影した作品。両脇に彫られたフレーズも青年らしい瑞々しさにあふれ、とても印象に残りました。最後のコーナーには棟方志巧の作品も。これが棟方?と疑いたくなるほど、そっくり! 全然知らなかったのですが、棟方は川上のこの作品に衝撃を受けて油絵を捨て、版画家になることを決意したそうです。

いくらでも複製が効くデジタルデータと対極にある、アナログな木版の世界。展示してある作品は「限定20部」クラスのものも少なくありません。川上が没したのは1972年。印刷技術は大きく様変わりし、紙に定着しない“電子書籍”の流通も現実味をおびはじめています。時代の波を押し留めることはできない。アートと書籍を同列に並べることはできないけれど、時代を超えて、人の手のぬくもりが残るものに魅力を感じるのもまた、事実。そんなことも考えた展覧会でした。

☆川上澄生:木版画の世界〜古今東西をあそぶ
http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html
世田谷美術館にて、5月9日まで開催中。
大幅な展示替えがあり、4月14日(水)から公開作品が変わるそうです。